「八丁味噌」の名前は愛知県民でなくとも、全国的に有名だと思います。では、どうして「八丁味噌」というのかはご存知でしょうか。
丁は尺貫法の距離の単位で、メートルに直すと1丁は約109mに相当します。岡崎城から西へ八丁離れた場所にある「八丁村」にて生産されていた味噌だから「八丁味噌」と呼ばれます。
令和の現在、岡崎城から西へ八丁離れた地域は「岡崎市八帖町(はっちょうちょう)」ないし「八丁町」と呼ばれていますが1、今なお愛知県民にはお馴染みの「カクキュー」と「まるや八丁味噌」の蔵および工場があり、伝統の味を製造し続けています。
今回はカクキュー2の運営する「八丁味噌の郷」にお邪魔しました。八丁味噌の郷は、工場直結の直営売店であるほか、八丁味噌を使ったグルメを楽しめるフードコート「岡崎カクキュー八丁村」も併設されています。
そして、八丁味噌の郷では、実際の味噌蔵を見ながら八丁味噌作りの歴史を学ぶことができる工場見学ツアーが毎日開催されています。しかも、無料です!
八丁味噌の郷で、味噌蔵&資料館を見学!
岡崎城から国道1号線を名古屋方面に進み、愛知環状鉄道の高架をくぐってすぐの交差点を左に曲がると、カクキューおよびまるや八丁味噌へアクセスできます。東岡崎駅からは2kmほど離れているので、徒歩よりは自家用車や公共交通機関でのアクセスが便利ですね。特に最寄りの愛知環状鉄道中岡崎駅および、名鉄名古屋本線岡崎公園前駅からは、徒歩5分ほどでアクセスできます。
一般の観光客が利用可能なエリアは、直営売店の「八丁味噌の郷」、醸造文化をパネルで紹介する展示館の「玄佺館(げんせんかん)」、フードコートの「岡崎カクキュー八丁村」となっており、そこ以外は稼働中の工場および蔵です。
平日は毎時0分、土日祝には毎時0分と30分に工場見学ツアーが実施されています。八丁味噌の郷の見学受付カウンターにて受付を済ませたら、参加用紙に参加人数と代表者の住所氏名を記入し、集合場所へ向かいます。参加受付は開始5分前まで可能です。
なお、写真撮影は可能ですが、撮影した写真の商用利用は認められていません。当記事でも広告を非表示にすることで対応しています。

ツアーは社員さんがガイド役となって、敷地内の様々な見所を詳細に解説してくれます。
こちらのレトロな佇まいの建物は本社の社屋で、昭和2年(1927年)に建てられたものが現在もほとんど手を加えず現役で使われています。平成8年(1996年)に、国の登録有形文化財に登録されています3。

ゲートを開き、工場の敷地内に入りました。ツアーとはいえ、あくまで稼働中の工場に入らせてもらっているわけなので、トラックやフォークリフトなどが通路を走行することがあります。見学の際にはガイドさんの指示に従って、業務を妨げないように動きましょう。
平日には、八丁味噌のパッキング作業の様子を見ることができます。八丁味噌は水分量が少なく固い味噌なので、機械での全自動のパッキングが難しく、人の手で袋詰めしています。


ガイドさんの案内で、史料館に到着しました。史料館は明治40年(1907年)に建築された大蔵を改装して作られており、江戸時代から続くカクキューの歴史を物語る資料の数々が展示されているほか、江戸時代当時の伝統的な味噌作りの様子を蝋人形で再現しています。

こちらは、国鉄時代の岡崎駅に掲げられていたカクキューの看板です。「日吉丸」こと幼き日の豊臣秀吉と蜂須賀小六が、矢作橋にて出会った逸話をもとに描かれています。
「カクキュー」の屋号は、看板の左上にも描かれた、四角で囲まれた「久」の文字を指します。カクキューの当主は代々「早川久右衛門」の名を受け継いでおり、久右衛門の「久」からとられた屋号です。初代早川久右衛門は元々今川義元の家臣・早川新六郎勝久でしたが、桶狭間の戦いで今川が敗れた後は武士をやめて名を久右衛門に改め、味噌作りを始めました。これがカクキューの始まりです。

こちらは、八丁味噌の伝統の製法のうち「味噌玉作り」という作業を再現したものです。
原料となる大豆を甑(こしき)という大きな蒸し器で蒸したら、大人の握りこぶし大にまとめて「味噌玉」を作り、梯子の伸びる2階部分に置いて、味噌玉に麹菌を繁殖させて「豆こうじ」という状態にします。八丁味噌は100%大豆から作られる、豆味噌なのです。
味噌は寒い季節に仕込まれていたので、1階を温めて、暖かい空気が味噌玉の置かれた2階に届き発酵が進むように、天井は竹を編んで作られています。

こちらは、麹菌の十分に繁殖した豆こうじを桶に仕込んでいく作業を再現したものです。豆こうじに水と塩を混ぜたものを、「半切り」という小さな桶(それでも大人2人で担ぐサイズ)に入れて運び、大きな木桶の中に入れます。桶の中に人がいますが、彼は味噌を足で踏んで中の空気を抜いています。
そして、木桶の中が豆こうじで満たされたら重石を乗せ、二年以上熟成させたら八丁味噌の完成となります。

こちらは、八丁味噌を仕込むのに使う木桶の実物です。天保10年(江戸時代、1839年)に作られたものが役目を終え、史料館に飾られています。木桶は一度作ったら長く使えるもので、現在も天保15年(1844年)に作られた木桶が現役で使われているのですが、一方で、この手の工芸品の例に漏れず、近年は職人が減っているようです。
そして、この木桶はとても大きいです。「六尺桶」とも呼ばれ、その直径は六尺、すなわち約1.8mです。僕が寝そべることのできてしまうサイズです。

木桶の底面には刻印があります。作られた年代と、作者の名前でしょうか。
天卵…?(多分違う)
当然ながら立てて使うものですし、簡単に倒せないような大きさでもあるので、底面の刻印を見られるのはこうやって役目を終えて展示されるときぐらいでしょう。
その他、史料館内にはカクキューの歴史にまつわる様々な資料や写真が展示されています。かつて使われたパッケージや、かつてカクキューの八丁味噌が「宮内省御用達」だったときの資料4、愛知県岡崎市が舞台となった2006年のNHK連続テレビ小説「純情きらり」のロケ地となった際の資料など、とても貴重なものがたくさんあります。(一部の資料は撮影禁止です)

史料館を出て、続いて向かったのは、八丁味噌が実際に仕込まれている蔵です。こちらは大正時代に作られた「甲子蔵(きのえねぐら)」です。中には、あの巨大な木桶が大量に並んでいます!
木桶1つあたりに6トンの味噌が仕込まれているほか、上に積まれた重石は合計1トンなのだそうです。重石は経験豊富な職人が手作業で積んでおり、地震でも崩れたことがないほど絶妙なバランスで乗っています。
蔵の中には、味噌の蓋を開けたときに漂うような、独特の香りが充満しています。まあ、目に入る範囲だけでも数十トンもの味噌が発酵しているわけなので、無理もないでしょう。味噌は岡崎の自然の気温に任せて発酵させているため、蔵に冷暖房のような空調はありません。夏の暑さと冬の寒さの中で熟成が進み、大豆のたんぱく質がうまみ成分のアミノ酸へと変化していきます。
訪問時は冬場だったので「味噌の匂いがするなぁ」程度で済んだのですが、夏場はもっと強い匂いになるらしく、社会科見学に来た小学生が耐えられずにすぐに退散したこともあったのだとか。

味噌蔵の見学を終えたら、工場見学ツアーの終わりです。最後に、カクキューの最高級八丁味噌を使った味噌汁を試飲することができます。
うーん、どえりゃあ濃厚!!
ガツンと来る、特有の酸味と渋味に驚きます!これだよ。これこそが八丁味噌…!ここまでのツアーで八丁味噌への理解度が高まっていることもあって、一口一口がより尊く感じられました。
八丁味噌の特徴は、この酸味と渋味と旨味が複雑に絡み合って作られる濃厚なコクです。この味は香り成分とは違い、煮立てても失われることがないため、八丁味噌は味噌煮込みうどんやどて煮のような煮込み料理によく使われます。また、八丁味噌の味噌汁を作るときには、このコクに負けないように出汁を濃いめに取ると美味しくなるようです。

ところで、八丁味噌とよく似た味噌に「赤だし味噌」というものもあります。僕はあまり区別がついていなかったのですが、赤だし味噌は八丁味噌などの豆味噌に米味噌をブレンドした味噌で、カクキューでも製造・販売しています。
八丁味噌の味噌汁を頂いた後で、赤だし味噌の味噌汁と飲み比べてみました。

ビジュアルはほぼ変わらないのですが、味はかなり違います。赤だし味噌では、八丁味噌の酸味と渋みがかなり抑えられ、飲みやすい感じになっています。合わせ味噌や白味噌の味噌汁の味に近づくとでもいいますか。それでいて、八丁味噌の持ち味である酸味やコクも程よく残っています。

こちらは八丁味噌ベースのタレを使った味噌田楽の試食です。

こんにゃくのような淡白な味の素材と合わせるうえで、濃い味と深いコクのある八丁味噌は相性抜群です。
試食が終わると、工場見学ツアーも終了となります。所要時間は約30分です。


見学の記念品として、「八丁味噌のパウダー」を2袋もらえます。


その名の通り、八丁味噌をフリーズドライにしてパウダー状にしたものです。粉末にすることで調味料として取り回しやすくなっており、お好みの料理に八丁味噌のコクをプラスできます。目玉焼きや冷奴などにかけても美味しいと思います。
八丁味噌に関する知識を社員さんのガイドで直接得られるうえに、実際に八丁味噌の試食もできて、お土産まである。そんな、味噌煮込みうどんのごとく濃厚な工場見学を、冒頭でも述べた通り無料で楽しめます。明日から八丁味噌がもっと美味しく感じられる、おすすめの体験です!
八丁味噌を活かした面白グルメを味わう!
八丁味噌の郷および、併設のフードコート「岡崎カクキュー八丁村」では、自社製品の八丁味噌を生かした面白いグルメを多く楽しめます。変わり種の八丁味噌グルメをいろいろと試してみました!
味噌ソフトクリーム

こちらは八丁味噌の郷の名物「味噌ソフトクリーム」です。コーンとカップから選ぶことができます。
ソフトクリームに赤だし味噌を練りこみ、前述の八丁味噌パウダーをまぶし、八丁味噌せんべいをトッピングしています。
赤だし味噌を練りこんだソフトクリームは、甘味と八丁味噌のコクが一体化することで、さながら塩キャラメルのような味わいに仕上がっています。八丁味噌パウダーの塩気が、ソフトクリームの甘味を引き立てていますね。これはなかなかに満足度の高い「ご当地ソフトクリーム」です。
チーズDemisoバーグ膳

フードコート「岡崎カクキュー八丁村」では、八丁味噌を使った代表的なグルメである味噌煮込みうどんや味噌カツ以外にも、八丁味噌を隠し味的に活かしたグルメを楽しむことができます。

「チーズDemisoバーグ膳」を注文しました。

その名の通り、隠し味に八丁味噌を使ったデミグラスチーズハンバーグです。土鍋でグツグツと煮えながらやってきます。
こちら、変わり種グルメかと思いきや、びっくりするほどデミグラスハンバーグとして違和感が無いんですよ。良い意味で味噌の主張を感じないのですが、それでも注意深く味わうと、後味に感じるコクの部分が八丁味噌のそれと同じです。八丁味噌という調味料はかなり濃厚な味わいなのに、使い方次第では過度に味噌を感じさせず、コクの部分だけを料理に移せるので、隠し味適性がとても高いと言えそうです。
それ以外の点では、味噌汁も八丁味噌の味噌汁なのも嬉しいポイントですね。
名古屋クラシックショコりゃあて

八丁味噌の郷の売店にて購入したチョコレートケーキです。岐阜県関市のお菓子メーカー「フレシュール」が製造・販売しています。

なんと、カクキューの八丁味噌を使ったチョコケーキです。とはいえ、見た目からも香りからも、味噌の面影が見えなくて驚きます!
チーズDemisoバーグと同様に、良い意味で味噌を感じさせない味わいなのですが、後味に感じるコクを注意深く味わうと八丁味噌との共通項を感じます。「こう、ピンポイントでコクだけを足せるものなんだな」と驚かされますよ…。八丁味噌は想像以上に変幻自在の調味料です。
岡崎八丁味噌ヴァイツェン

こちらも八丁味噌の郷の売店にて購入しました。岡崎市内にあるビールメーカー「岡崎ビール」が製造・販売するクラフトビール「岡崎八丁味噌ヴァイツェン」です。カクキューの八丁味噌を使用した、白ビールです。

これ、結構しっかりと味噌の味がするのでびっくりします。喉越しで感じるのが八丁味噌のコクそのものなんですよね。確かに「八丁味噌でもあり白ビールでもある」と言える味わいが、とても面白いです。
カクキュー八丁味噌の郷 まとめ
カクキュー八丁味噌の郷は、愛知県岡崎市の八丁味噌の蔵元・カクキューが運営する工場直営売店です。カクキューの八丁味噌を使った製品や岡崎土産、赤だし味噌仕立ての「味噌ソフトクリーム」などを楽しめます。また、併設のフードコート「岡崎カクキュー八丁村」では、カクキューの八丁味噌を使ったグルメを楽しめます。定番の味噌煮込みうどんや味噌カツから、「チーズDemisoバーグ」のような変わり種まで取り揃えています。
八丁味噌製品や、八丁味噌を使ったグルメも魅力的ではありますが、八丁味噌の郷の魅力はなんといっても工場見学です。八丁味噌の長い歴史や伝統の製法を、社員さんの詳細なガイドを聞いたり、江戸時代や明治時代から使われていたものの実物を見たりなどして学ぶことができます。八丁味噌をより美味しく楽しめるようになること間違いなしです!
※当記事への広告掲載について
工場および史料館内の写真は営利目的での利用が禁止されています。当記事ではGoogle Adsenseの広告を非表示にすることで対応しております。
八丁味噌の郷
愛知県岡崎市八丁町69
営業時間:
9:00~17:00(八丁味噌の郷・売店)
11:00~15:00(岡崎カクキュー八丁村)
※訪問時点での情報です。
合資会社八丁味噌・株式会社カクキュー八丁味噌のWebサイトはこちら↓
- 2022年に、岡崎市八帖町のうち、カクキューとまるや八丁味噌の敷地に相当する箇所が「八丁町」として分離しています。
- 八丁味噌を製造・販売する法人の名前は「合資会社八丁味噌」、八丁味噌の郷を運営する法人の名前は「株式会社カクキュー八丁味噌」。
- 参考:本社屋|合資会社 八丁味噌/株式会社 カクキュー八丁味噌
- 宮内省御用達の制度は1954年(昭和29年)に廃止されています。


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