映えじゃない、感じろ。日本列島公園のミニ日本列島

観光・イベント

Googleマップを見るのが好きだ。趣味の旅行の計画や、退勤後の買い物の予定を練るために、毎日のように目を通している。それどころか、用事が無くても目を通している。テレビのチャンネルをザッピングするがごとく、適当にスクロールさせてまだ見ぬ土地に思いを馳せている。

ザッピング中に、ふと不思議なものを見つけて手が止まることがある。その日、僕は名古屋から豊橋までのドライブの計画を練るために、愛知県東部の三河地区をGoogleマップで見ていた。

すると、三河湾に面した埋め立て地の工業団地に気になるものを見つけた。

その名も、日本列島公園。名古屋の鶴舞にある公園は鶴舞公園、久屋大通にある公園は久屋大通公園というように、公園の名称は公園の所在する場所や地名にちなむことが多いが、日本列島公園とは随分大きく出ているのではないだろうか。日本にあるどの公園も「日本列島公園」と名乗ることができるはずなのに、あえてそうしてこなかった。なのに、愛知県は豊川市の沿岸の埋め立て地にあるこの公園は「日本列島公園」を名乗っている。世の中は早い者勝ちだ。

いや、もしかしたら、小さい日本列島があるから「日本列島公園」という名前なのかもしれない。大きなものを精密にミニチュア化したものに、人々は惹かれる。鉄道模型のNゲージなんかが良い例だろう。三河湾に浮かぶ小さな日本列島なんて、想像するだけでフォトジェニックじゃないか。モネの池や父母ヶ浜がごとき「映えスポット」になること待ったなしだ。ブログやSNS投稿のネタにうってつけだろう。

パソコンの前であれこれと想像が膨らむが、百聞は一見にしかず。ドライブのコースに日本列島公園を入れて、ここがどのような公園なのか確かめてみることにした。ブログやSNSのネタにうってつけの撮れ高が待っていると信じて。

三河湾の小さな日本列島

愛知県の東西の大都市、豊橋市と名古屋市を信号無しで結ぶ、愛知県の交通の大動脈・国道23号線名豊道路を、豊川市の前芝ICで下車し、カーナビに従って海のほうへ向かう。大きな橋を渡ると、程なくして埋め立て地の工業団地に辿り着いた。天候に恵まれ、快晴の日が続いた2025年のゴールデンウィークだったが、行楽地に人が増えるのとは対照的に、工業団地は車通りも人通りも皆無。従業員たちもこの日は休みで、人っ子一人居ないのだ。カーナビを点けているとはいえ、本当にこちらで正しいのか不安になる静けさだ。

しかしながら、路傍に立つ案内標識には確かに「三河臨海緑地(日本列島)」の文字があるので、それに従って進んでいく。どうやらカーナビも標識と同じ方向に案内しているようなので、安心して車を人気の無い細道へと走らせていく。

カーナビの目的地に近づき、音声案内が終了する。右手の方向に小さな入口が見えてきたので入ってみると、どうやらここが日本列島公園の駐車場のようだ。

ほとんどが釣り客でした

工業団地には全く人気が無かったが、駐車場にはそこそこ車が停まっている。車から下りると、そこにはゴールデンウィークの最中とは思えないほどの静寂が広がっていた。

公園の奥に進み、目的地であろう方向へと向かう。案内標識の矢印の先には「日本列島」と書かれている。ドラマTRICKの「←ブラジル 出口→」の看板のような可笑しさを感じてしまう。

TRICKとは違い、幸いにも一本道なので、迷わずに橋を進んでいく。

橋を渡ったところに、日本列島が本当にあった。親切にも入口に「日本列島」と書かれているので、ここで間違いないだろう。

早速中に入ってみるのだが…困った。普通の公園だ。築山のように盛り上がる緑地帯を取り囲むように、通路がある。この時点で「映えスポット説」は音を立てて崩れた。

となると、やはり日本列島にあるから日本列島公園を名乗るという、大胆な手口なのか。

まずいな。フォトジェニックじゃないな。撮れ高大丈夫か。

そんなことを思いつつも、入り組んだ緑地帯の間を縫うように園路を歩いていると、足元に都道府県の花が描かれたパネルが埋められていたり、ご当地の民謡や童謡の歌碑が建てられたりしていることに気付く。

それに、緑地帯の、この入り組み方には見覚えがある。

緑地帯が東から西へ、北から南へ細長く伸びた不思議な形状。妙にどこかで見覚えがあり、親しみを感じる。

タネ明かしをすると、日本列島公園は緑地帯でミニチュアの日本列島を再現した公園なのだ。日本列島公園のある三河臨海緑地は1994年3月に、当時の宝飯郡御津町と豊橋市に跨がる埋め立て地に整備された、国内でも最大規模の臨海緑地だ。アニメ映画「君の名は。」では新幹線の車窓からここらしき風景が映るシーンがあり、同作品の聖地の一つにもなっていいるようだ。

都道府県イラストは「いらすとや」より。以下同様

先ほどの「見覚えがある入り組んだところ」というのも、要するに愛知県の形をしているわけだ。東から西に伸びる渥美半島と、北から南に伸びる知多半島が再現されている。

最初に目についた緑地帯は、ミニ四国だったようだ
さらに、緑地帯を横切る通路は主要河川を模している。写真は隅田川を模した通路

残念ながら、このミニ日本列島全体を見渡せるような高台や展望塔は存在しない。しかし、タネが分かると、散策の意識は変わってくる。今、僕は日本のどこを歩いているのか。そのことを考えながら足元のパネルを見ると、自分が立っているのがこのミニ日本列島における何県付近なのかが大体分かる。そこから逆算して緑地帯を見ると、その形状が地形をよく表していることに感心させられる。

それだけではなく、ミニ愛媛県に相当する場所にみかんのオブジェがある…というのは序の口で、この日本列島公園、細かなネタがたくさん散りばめられている。

愛知県に相当する場所から少しだけ東に行くと、一際高い築山が見える。言わずもがな、これはこのミニ日本列島における富士山だ。ただ単に高く土を盛るだけでなく、頂には白い石が積まれており、冠雪した富士山を再現している。そこにこだわりを感じる。

ミニ東京都に相当する場所には、休憩スペースを兼ねた石のオブジェが立っている。さしずめ、これは都心の高層ビルだろうか。

そもそも、今回入場した入口のゲート自体が関門橋を模しているし、その脇に建てられた公園の案内パネルは下関のふぐの形をしている。

ミニ陸奥湾にはりんごのオブジェがあるし…。

ミニ福井県のミニ東尋坊は「東尋坊」と書いた石柱で再現するというパワープレイぶりだ。

また、写真には収めていないが、他にも将棋のコマ型のベンチ(山形県)や、はりまや橋の欄干型のベンチ(高知県)、兼六園の徽軫灯籠(石川県)といったオブジェクトも存在する。

ミニ山口県側から入場し、本州を模した長い緑地帯に沿って東へと進んできたが、どうやらここが緑地帯の端のようだ。二股に分かれた形状は、ここまでくればもはやミニ下北半島とミニ津軽半島にしか見えない。

ということは、園路を挟んで反対側にあるこの緑地帯はミニ北海道のミニ松前半島とミニ亀田半島であり…。

反対側に回り込むように進むと、ミニ日本列島の反対側の端、ミニ宗谷岬に辿り着いた。

言ってしまえば緑地公園を15分弱歩いただけなのだが、その実情はミニ日本列島の縦断である。新緑に触れながらの散歩だけでは得られない、達成感のようなものを感じた。

「映え」の時代だからこそ「感じ取る」味わいがある

日本列島公園では植栽にも工夫が凝らされており、
ミニ鹿児島県の大隅半島に相当する部分には、南国を思わせるソテツが植えられている

こういう緑地公園を歩くとき、良くも悪くも「今日天気いいなぁ」「花咲いてるなぁ」「虫いるなぁ」以上の大した感慨はない。けれど日本列島公園は、ここがミニ日本列島だという情報を最低限開示することによって、ここが何県でここが何半島かということを感じながら散策できる。言うなれば、散策をちょっとしたエンタメにしてくれるのだ。

「考えるな、感じろ。」これは映画「燃えよドラゴン」にてブルース・リーの残した名言だが、わかりやすく映えるものがもてはやされる今だからこそ、日本列島公園の「敢えて全体像を晒さずに感じさせる」という手法が一周回って楽しいのだ。

尤も、Googleマップを見ればわかるように、ミニ日本列島は細かなネタを拾いつつも、その形状は限られたスペースに収める都合があったり、庭園としての整備のしやすさが優先されたりしたのか、大きく歪んだ形状となっている。仮に高台や展望塔からミニ日本列島全体を見渡すことができたとしても、それは子供に「サンタクロースの正体は両親」と吹き込むかのような、無粋なタネ明かしに他ならないのかもしれない。

ただの放置された花壇かと思ったが「安里屋ユンタ」の歌碑が設置されているので、どうやらミニ沖縄本島のようだ

トイレなどは綺麗に保たれている一方で、無造作に伸びた植え込みや雑草も目立つ。程よく手入れがサボられている感じで、そのせいでミニ沖縄県が「ただの草ボーボーの植え込み」になっているところも含めて愛おしい。

日本列島公園を訪れる前後には、多くの人で賑わう道の駅や水族館にも訪問した。道の駅や水族館は、様々な仕掛けで楽しませてくるので、受け身の姿勢でも面白いのに対し、日本列島公園は、向こうからの働きかけでなく、こちらが感じ取って面白がるスポットであるように感じた。

記事を様々な方に楽しく読んでもらいたいブロガーとして、面白がる視点や、あらゆるものを面白いと思える心の余裕を大切にしていきたいと思いながら、人気のない埋め立て地を後にした。……さすがに、ゴールデンウィークの名豊道路の渋滞を面白がることはできなかったが。

日本列島公園(三河臨海緑地)
愛知県豊川市御津町佐脇浜1号地

豊川市観光協会のWebサイト内の紹介ページはこちら↓

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この記事を書いた人

日本各地を渡り歩くさすらいのなまこ。食べ歩き、道の駅巡り、スーパー銭湯巡りが好き。流れ着いた地域の飲食店、道の駅、スーパー銭湯情報をブログにて発信中。【これまでの拠点】徳島、仙台、名古屋

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