皆さんは徳島が大正時代から昭和初期にかけて、日本を代表するたくあんの産地だったことをご存知だろうか。
僕は最近まで知らなかった。愛読しているデイリーポータルZというサイトのこちらの記事にて初めて知った。
ライターのいまいずみひとしさんが、全国各地のたくあんを試食できるイベントに参加したときの体験レポで、この中で「阿波たくあん」として石井町の丸井産業というところが製造している「いなかたくあん」という商品が紹介されていた。
大正~昭和の、阿波たくあんがこの世の春を謳歌していた頃から変わらぬ味わいを守り続けているという、いなかたくあん。そんないなかたくあんを先日入手できたので、早速味わってみた!
こちらが、徳島の隠れ名物のいなかたくあん。道の駅などに行かないと手に入らないかと思ったけれど、普通に近所のキョーエイに売っていた(笑)
いなかたくあんは、青首大根を10日塩漬けした後に8か月間米ぬかに漬け込んで発酵させ、十分に発酵して酸味が出た頃に今度はすだち果汁、柿の皮、唐辛子などの調味料を混ぜた米ぬかに漬けて完成させるのだそうだ。
パックの中には、米ぬかから取り出したそのままの状態で入っている。色はぬかの色が移ったのか、薄い黄褐色といったところ。パックを開けると酸っぱそうな匂いが漂ってくる。伝統の製法を守って作った自然な一品といった感じがする。
細かく切って早速一口。
これはすっぱい!
強い酸味に加えて、しっかりとした塩味がある。しんなりとした見た目だが、食感は程よいパリパリ感がある。
この強い酸味も「漬かりすぎ」というよりは、もう少しフルーティーで爽やかな感じがする。きっとすだち果汁が効いているんだと思う。
ひとかけらでも味が強いので、ご飯のお供にするとご飯がかなり進むことうけあいだろう。ただし、かなり酸っぱく、ぬかの風味もあるので、子供はあまり好きではない類の味かもしれない。
酸味と塩味の強い漬物ということで、お茶漬けにアレンジして食べてみた。
ご飯の上にいなかたくあんを数切れ乗せ、冷蔵庫に入っていた和田島ちりめんと鳴門のめかぶも一緒に乗せて緑茶をかける。ちなみに使ったお茶は特茶なので、ご飯のカロリーと相殺しあってカロリーゼロだ(え)
冗談はともかく、お茶の強い渋味・苦味がいなかたくあんの酸味・塩味をマイルドにしてくれる。ちりめんとめかぶのほのかな塩味と旨味も加わり、美味しく流し込むことができた。
徳島がたくあんの一大産地となった背景には、藍染の衰退が関係している。化学染料の登場で藍染が下火となり、吉野川下流域では藍のかわりに漬物用大根の生産が盛んとなって、気が付けば一大生産地になっていたのだという。当時の食卓にはご飯(麦飯)とたくあんが欠かせないもので、それゆえに猛烈な需要があったのだそうだ。
そんな阿波たくあんがなぜ廃れていったかというと。阿波たくあんの材料として当時用いられていたのは品種改良の末に生まれた「阿波晩生」という品種で、阿波晩生は当時の他の青首大根と違い、たくあんにしても見た目が美しいという特徴があった1。
しかしながら、阿波晩生は病気に弱いという欠点があり、1950年にウイルスの蔓延で甚大な被害を受け、その間に他の産地が台頭してきて、徳島でのたくあん生産は下火になっていったのだとか。
現在は病気に強い「阿波新晩生」という大根が生産されており、阿波たくあんは丸井産業をはじめとした一部の漬物メーカーが細々と生産しているのみだ。
産業も食文化も、続くものもあれば廃れていくものもある。阿波たくあんは廃れつつも細々と続いているものの一つ。徳島がたくあんの一大産地だった頃の忘れ形見のようないなかたくあんを味わうことができて本当によかった。微力ながら、この記事が阿波たくあんの記憶を未来につなぐ手助けになれば幸いだ。
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