東海地方のスーパーマーケットでは「明宝ハム」というご当地ハムが売られています。岐阜県郡上市の明宝という地域(旧郡上郡明宝村)にて生産されているプレスハムです。良質な国産の豚もも肉を使用し、なおかつ添加物も控えめに、手作りで作るというこだわりのもと、長年にわたって愛され続けています。当ブログでも過去に、CoCo壱番屋千種区本山店の店舗限定メニュー1である「明宝ハムカレー」を紹介したことがありましたね。
そして、スーパーマーケットの精肉コーナーの明宝ハムの隣には、明宝ハムとよく似た名前、よく似た形状の「明方(みょうがた)ハム」というプレスハムも売られています。
少し調べてみたところ、どうやら明宝ハムと明方ハムとの間にはとある因縁があるようなのです。
そのことを知った僕は、こう思いました。「ならば、どちらが美味しいか白黒つけてやろうじゃないか」と。
というわけで、今回は明宝ハムと明方ハムのそれぞれを5種類の調理法で食べ比べる「五番勝負」をして、両者の違いやそれぞれの特徴、合う調理法を見つけていきたいと思います!
明宝ハムと明方ハムの因縁とは?
明宝ハムは明宝特産物加工株式会社が、明方ハムはめぐみの農業協同組合(JAめぐみの)が製造・販売しています。
両者の歴史については、明宝ハムと明方ハムのそれぞれのWebサイトにて詳細に記されています。
昭和28年に、当時は郡上郡奥明方村と呼ばれていた郡上市明宝地区にて、山村の畜産振興と食生活改善のために、農協主導で、特産品兼タンパク源としてハムの生産が始まりました。これが「明方ハム」の原型となっています。
当初は村民から贅沢品とみなされ、思惑とは裏腹になかなか消費されず低迷が続いていました。そこで、赤字の打破のために、販路を奥明方村内のみならず近隣の郡上郡八幡町(現郡上市八幡町)にも求め、八幡町にてお土産として販売されるようになりました。
そんな明方ハムに転機が訪れたのは昭和55年のことでした。当時NHKにて放送されていた「明るい農村」というテレビ番組にて、明方ハムが紹介されたのです。これをきっかけに、明方ハムは「良質な豚肉を使った、添加物控えめの手作りハム」として全国に知れ渡り、人気が爆発したのです。
明方村(昭和45年に奥明方村から改称)では、明方ハムを村おこしのための特産品として育てようと、村内の工場を拡張して明方ハムの増産をしようとしました。一方で、当時明方ハムの製造・販売を行っていた郡上農協は、明方ハムの工場を明方村から八幡町へと移転しようとしました。ここが因縁の始まりでした。
結局、明方ハムは郡上農協が工場を八幡町へと移転したうえで増産された一方で、明方村は村おこしや雇用の確保のために、新たにハムを製造する会社を興したのでした。新たに作られたハムには「明方の宝になってほしい」という願いを込められ「明宝ハム」という名前が付けられました。
こうして、明宝ハムと明方ハムはそれぞれの道を歩むことになったのでした。
明宝ハムと明方ハムのそれぞれのWebサイトを見ていると、分離に関するそれぞれの言い分がよくわかります。農協側は明方ハムを「主要な商品」と考えて、安定した量産体制の確保を重視していた一方で、明方村側は明方ハムを「村おこしと雇用確保の切り札」と考えて、村内での生産継続を重視していました。つくづく、実際の社会はどちらが正しくどちらが間違っているかの二元論で語れないことばかりで難しいものです。
誕生には決別の歴史があったわけですが、結果として、明宝ハムも明方ハムも、それぞれ東海で愛されるご当地ハムとして成長を遂げたわけです。特に、明宝ハムに関しては明方村を「明宝村」へと改称するきっかけにもなっています。
食べる前にわかる違い
よく似た二つのプレスハムですが、まずはパッケージを見比べてその違いを探っていきます。
購入したスーパーマーケット(アピタ)では、売値はどちらも税抜1180円でした。値段の点ではイーブンでしたが、一包装当たりの重量は明宝ハムが360gに対して明方ハムが400gと、少しだけ明方ハムのほうが多いです。
原材料にはどちらも豚肉、食塩、砂糖、香辛料/調味料(アミノ酸)、リン酸塩(Na、K)、発色剤(亜硝酸Na)が使用されており、一見するとほぼ同じなのですが、明方ハムにはさらに「くん液」も使われています。ということは、明方ハムにはスモーク風味もあるのでしょうか?明確に味に影響してきそうで、とても気になります。
栄養成分表示を見てみると、100gあたりの熱量は明方ハムのほうが高くなっています。数値が大きく異なっているのは脂質と炭水化物で、明方ハムでは脂質、明宝ハムでは炭水化物の含有量が大きくなっています。若干ではありますが、明宝ハムのほうが脂質とカロリーをカットされているようです。
製造元が分かれて、微妙な製法の違いが影響してきたということなのでしょうか。とりあえず「似ているようで違っている」ことはわかって安心しました。もし「どちらもほとんど同じ」だったら企画不成立でしたよ!(え)
というわけでここからは、様々な調理法で明宝ハムと明方ハムを食べ比べてみます!
五番勝負① そのまま食べる
郡上市明宝にある道の駅明宝のWebサイトによると、明宝ハムの最も美味しい食べ方はそのまま食べることなのだそうです。製造過程で加熱処理、味付け、香り付けをしてあるため、そのまま食べても美味しく仕上がっているのだとか。
なので、そのまま食べるべくハムの塊を切り分けてみたのですが、どちらがどちらなのかさっぱり見分けがつかないビジュアルに頭を抱えました(笑) やっぱりこれ、企画不成立なんじゃ…!?
とりあえず、見分けがつくように、明宝ハムと明方ハムをそれぞれ別々の皿に盛り付けました。
緑の皿が明方ハム、黒い皿が明宝ハムです。
とにもかくにも、食べ比べてみましょう。これで違いがわからなかったら、企画不成立ですよ!?2本合わせて2000円以上したというのに。ドキドキ。
(海鼠試食中…)
結論から言うと、企画成立です!食べてみると、明宝ハムと明方ハムにははっきりとわかる違いがありました。
明方ハムのほうには、原材料の「くん液」の通り、スモークの風味を感じられました。ゆえに、明宝ハムよりもしっかりとした味に感じられます。とはいえ、明宝ハムも明方ハムも塩分がしっかりと効いているので、薄味というわけではありません。一度にたくさん食べるものではないですね。
味がしっかりとついているので、そのまま齧っても美味しいのですが、玉ねぎポン酢をかけても美味しいです。酸味で肉の旨味が引き立ちます。
「そのまま食べる」という点では、スモークの風味が際立つ明方ハムのほうがより印象に残りやすかったです。
五番勝負② 焼き(ハムステーキ)
そのまま食べるのと同時に、両者をバターステーキにして「焼き」でも食べてみることにしました。味付けにはロピアにて購入した、バイきんぐ西村さん監修の万能スパイス「バカまぶし」を使用しました。
先ほどと同じく、緑の皿が明方ハム、黒い皿が明宝ハムです。
食べてみると、そのまま食べるのとはかなり印象が違っていましたね。焦げ目がつくまで焼くことで、食感が際立ちます。明宝ハムと明方ハムは、味だけでなく食感の印象もかなり違っており、明方ハムはぷりっと噛み切れる食感なのに対し、明宝ハムは肉の筋を感じられる食感であり、本当にもも肉の塊にかみついているようなイメージです。
スパイス「バカまぶし」も優秀でした。クミンの香りと風味が食材そのものの味を良い具合に引き出します。その商品名から、なんとなく味の濃さで全てを解決するスパイスであるようなイメージを抱いていましたが、むしろ助演男優賞を与えたいほどに主役の食材を引き立てる奥ゆかしいスパイスでした。
「焼き」で食べると、明宝ハムは「ハム」としての殻を破り「ステーキ」の域に手が届こうとしているように思えました。
五番勝負③ 炒め(ジャーマンポテト)
明宝ハムと明方ハムを「炒め」でも食べてみます。ところで「焼き」と「炒め」は何が違うのでしょうか?調べてみると、どうやら「焼く」という言葉は狭い意味では直火焼きのことを指すのだそうです。となると、先ほどのハムステーキは「炒め」ということになるのでしょうか? ……と思いきや、どうやら「炒め」のほうは他の具材とかき混ぜながら手早く火を通すという意味があるようなので「焼き」とは使い分けられているようです。
ともかく今回は「炒め」の定義にのっとって、じゃがいもや玉ねぎと一緒に炒めてジャーマンポテトを作ってみました。
味付けは塩コショウでシンプルに作ってみました。ハムの脂と旨味、新玉ねぎの甘味が全体に行き渡り、美味しく仕上がりました!明宝ハムは食感がしっかりとしていて、明方ハムは風味が豊かで、どちらも甲乙つけがたい美味しさです… というか前半2つの勝負で明宝ハムと明方ハムの特徴を大体掴めた感じは否めません(え)
「炒め」で食べると、どちらのハムからも素晴らしい旨味が出ます!
五番勝負④ 煮込み(スープ)
塩蔵肉であるハムは、煮込むと旨味が出てくると思われます。なので、煮込み料理との相性を調べてみることにしました。
本来なら別々の鍋で作れるのが理想なのですが、我が家のコンロは一口なので仲良く同じ鍋で煮込まなければなりません!なので、見分けがつくように明宝ハムを四角、明方ハムを三角に切って煮込みました。
今回作った煮込み料理は、昆布水を使った和風ポトフです。見込んだ通り、スープにはハム由来の複雑な旨味が出ていますよ!
煮込むことでも食感が際立ちます。特に、明方ハムの歯切れの良いプリッとした食感がスープとよく馴染むような気がしました。
五番勝負⑤ 揚げ(ハムカツ)
大抵のものは衣をつけて揚げたら美味しくなります。ということは、旨味の塊である明宝ハムや明方ハムでハムカツを作ったらとても美味しいのではないでしょうか。
というわけで、最後の勝負は「揚げ」です。チーズを間に挟んでチーズハムカツを作ってみたのですが、いろいろと拙い出来です(苦笑) 揚げ物用の鍋を用意すべきだろうか… なお、味はハムそのものに十分付いているので、下味はつけません。
手前が明宝ハム、奥が明方ハムなのですが、チーズを挟んで揚げると、強い旨味と、とろけだすチーズに、満足度は十分です!
やはり火が通ることで食感が強く際立つようになります。ぷりっとした明方ハムと、肉にかぶりついているかのような明宝ハムとでは印象が少し違います。明方ハムのチーズハムカツは「ハムカツ」らしく、明宝ハムのチーズハムカツは「とんかつ」感があります。これはどちらが好きか、好みが分かれるかもしれないですね。
明宝ハムと明方ハム 五番勝負 まとめ
岐阜の山村の食生活改善と畜産振興に端を発して生産され始めたハムは、紆余曲折を経て「明宝ハム」と「明方ハム」の2つのブランドに分かれました。国産の豚もも肉の使用や、添加物の削減、手作りへのこだわりといった共通点があり、食べてみるといずれもしっかりとした豚肉の旨味を感じられる上質な味わいです。
違いに着目して食べ比べてみると、明方ハムはスモークの風味が効いた歯切れの良いハムである一方で、明宝ハムはまるで豚もも肉の塊に噛みついているような食感が楽しかったです。個人的な好みとしては、そのまま食べたり、スープに入れたりするなら明方ハムが、焼いたり揚げたりするなら明宝ハムが好みでした。
今も伝統の製法にこだわって作られている二つのハムは、違いに注目して食べ比べてみるのも楽しいです。皆様はどちらがお好きですか?
明宝ハムのWebサイトはこちら↓
明方ハムのWebサイトはこちら↓
コメント
明方はむと明宝ハムの因縁、なかなか面白いですね。それと5番勝負には感心しました(°▽°)
コメントありがとうございます。
現在の両者が言うほど因縁の関係なのかはわかりませんが、歴史を見比べると双方の重視したことの違いがわかって興味深かったです。
5番勝負で食べ比べて、双方の美味しいポイントがよくわかりました!揚げ物はもっと練習します(笑)